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月島の過去は何があったのか
結論から言うと、月島基は父親を殴り殺して尊属殺人の死刑囚になり、そこを鶴見中尉に拾われました。ただしその救出そのものが、鶴見の組んだ芝居でした。
第七師団唯一の常識人として、無表情で任務をこなす人物です。その無表情は、二度にわたって事実をひっくり返された結果でした。
この記事でわかること
- 入隊から奉天までの年表
- いご草ちゃんとは誰なのか
- 鶴見が話を覆した順番
- 奉天の兵士が芝居だと分かる矛盾
- 鶴見が消えたあとの行き先
月島の過去を年表で押さえる
| 年 | 起きたこと |
|---|---|
| 1894年 | 新潟県新発田の第二師団へ入隊。同年7月に日清戦争が開戦 |
| 1895年 | 日清戦争が終結。佐渡へ戻り、父を殴殺して死刑囚になる |
| 1897年 | 鶴見とともにロシアへ渡る |
| 1902年 | 鯉登音之進の誘拐事件を手伝う |
| 1904年 | 日露戦争。奉天の野戦病院で同郷の兵士から話を聞く |
入隊のきっかけは、おそらく徴兵です。同じ新発田には、当時の鶴見もいました。
いご草ちゃんとは誰なのか
月島を語るのに欠かせないのが「いご草ちゃん」です。本名は春見ちよといいます。
いご草とは海藻のえご草のことで、月島の故郷である佐渡ではこう呼ばれていました。そのいご草に似たクセのある髪から、島の者に「いご草」とからかわれていたのです。
月島はその髪を好んでいて、からかう者と喧嘩することもありました。
月島自身は、悪い噂の絶えない父親のせいで「人殺しの息子」「荒くれ者」と呼ばれ、島中から嫌われていました。そんな中で唯一「基ちゃん」と名前で呼んでくれたのが、いご草ちゃんです。
二人は惹かれ合い、月島が陸軍へ入るときに約束を交わします。日清戦争から帰ってきたら駆け落ちしよう、という約束でした。
僕はこう読む
「基ちゃん」と呼ばれていた、という一点が全部だと思っています。
島では人殺しの息子としか呼ばれていませんでした。
名前で呼ばれた経験が、たった一人ぶんしかありません。
だから駆け落ちの約束が、そのまま人生の全部になります。
のちに鶴見が渡した髪の束を捨てられなかったのも同じ理由です。
捨てたら、自分を名前で呼んだ人の痕跡がゼロになる。
月島の依存体質は性格ではなく、環境が作ったものだと読んでいます。
父を殴殺して死刑囚になる
1895年に日清戦争が終わり、月島は佐渡へ帰ります。ところが駆け落ちどころではありませんでした。
島には「月島は戦死した」という噂が流れていました。そして月島が帰る10日前から、いご草ちゃんが行方不明になっていたのです。
履物が見つかったという海岸を、月島は来る日も来る日も探し回りました。それでも彼女は見つかりません。
そこで月島は、戦死のデマを誰が流したのかを突き止めます。犯人は、月島自身の父親でした。
溜まっていたものが、そこで爆発します。月島は怒りのまま父親を殴り殺し、尊属殺人の死刑囚となりました。
鶴見が二度、話を覆した
陸軍監獄で月島の話を聞いたのが鶴見です。そこから、事実が二度ひっくり返ります。
| 段階 | 月島が聞かされたこと |
|---|---|
| 監獄で(1895年) | いご草ちゃんは自殺していない。三菱財閥幹部の息子に嫁ぐため東京へ移った |
| 奉天で(1904年) | 月島が捕まった直後、いご草ちゃんの骨が父の家の床下から出た |
| その直後 | その骨は工作。東京へ嫁いだというほうが事実 |
監獄での説明はこうでした。いご草ちゃんを気に入った財閥幹部の息子へ嫁がせるため、彼女の両親が月島の父親に金を渡してデマを吹聴させた。
そして島ぐるみで、いご草ちゃんには月島の戦死を、月島にはいご草ちゃんの自殺を信じ込ませた。説明を終えた鶴見は、彼女から預かってきたという髪の束を月島に渡しています。
そのうえで鶴見は言いました。第七師団へ転属し、来たるロシアとの戦争に備えて情報将校としてロシアへ行く。信頼できる優秀な通訳として連れていくから、死ぬ気でロシア語を勉強しろ、という言い渡しでした。
月島はロシア語を猛勉強し、最終的に釈放されて第七師団へ移ります。樺太編で月島がロシア語を操れるのは、牢から出すために鶴見が習得を強いたからです。
それから9年後、奉天の野戦病院で同郷の兵士に会い、骨の話を聞かされました。9年前の話が嘘だったと知った月島は、激昂して鶴見に殴りかかっています。
鶴見の返答は「誰よりも優秀な兵士で、同郷の信頼できる部下で、私の戦友だからどうしても助けたかった」でした。
月島は「あの子で俺を騙して欲しくなかった」と責めます。それでもロシアの砲撃が来ると、反射的に身を挺して鶴見を守りました。
直後、鶴見はさらに話を覆します。月島を監獄から出すため、島民の前で骨を掘り出して「父親がいご草ちゃんを殺した」という虚偽を作った。父親殺しを正当化するための工作で、東京へ嫁いだというほうが事実だ、という説明です。
奉天の兵士は鶴見の芝居だった
月島は後になって、ひとつの矛盾に気づきます。
奉天で話しかけてきた同郷の兵士は、第二師団の所属でした。あの野戦病院にいるはずのない人物だったのです。
つまり、あの出来事そのものが仕組まれていました。月島の同郷の者を使って傷を掘り返し、枯れ果てたところへ自分の愛情を注ぎ込むという、鶴見の手の込んだ芝居です。
目的は、鶴見のためなら命を投げ出し、汚れ仕事も進んでやる兵隊を作ることでした。
月島はそれに気づいています。そのうえで「自分の人生には元々利用されて憤るほどの価値などない」と考え、従い続けました。
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この矛盾に読者が気づける形にしてあるのが、うまいところです。
第二師団は、月島が最初に入った部隊でした。
所属を覚えていれば、あの兵士がおかしいと分かります。
気づかせる材料を置いたうえで、月島自身にも気づかせている。
そして月島は、気づいたことを誰にも言いませんでした。
騙されているのではなく、騙されたままでいることを選んでいます。
鶴見に忠実な部下という言い方では、まったく足りない関係です。
髪の束を小樽の海に捨てる
日露戦争のあと、月島は過去と決別するように、いご草ちゃんの髪の束を小樽の海へ投げ捨てました。
そして、命を救ってくれた鶴見と、戦争で死んでいった者たちのために身を尽くすと決めます。
そこから月島が鶴見に従い続けた理由は、忠誠だけではありません。「鶴見劇場を最後までかぶりつきで観たい」という、見届ける側の動機でした。
とんでもないことを成し遂げられるのは鶴見のような人間だろう。その行く末を見ることが、月島の原動力になっていました。
23巻ではその苦しみを露わにしています。231話で鯉登が「その厳格さは捨てたものの大きさゆえか」と問いかけたのも、ここを指しています。
のちに札幌で、鶴見の目的が「日本国の繁栄」だと知ると、月島はさらに鶴見の兵士として没頭していきました。
鶴見が消えたあと、鯉登の右腕へ
最終決戦で鶴見は海に沈み、生死不明になります。
月島はそこで、いご草ちゃんを探していた時と同じように、一人で鶴見を探し続けました。鶴見がいなくなったことで、どう生きればいいのか分からなくなったのです。
その月島を引き戻したのが鯉登でした。「私の力になってくれ」という言葉で、月島は鯉登の右腕として新しい道を歩き始めます。
『ゴールデンカムイ』は2022年に全314話・全31巻で完結しました。月島はその最終話まで生き延び、生涯を鯉登の右腕として過ごしています。
僕はこう読む
月島が最後に選んだ相手が、鯉登だったことに救いがあると思っています。
いご草ちゃんも鶴見も、月島が探し続けて見つからなかった人です。
探す側に回ると、この人はいつも取り逃がしてきました。
鯉登だけが、月島のほうへ来て「力になってくれ」と言いました。
探しに行かなくていい相手が、初めて現れたことになります。
薩摩弁の通訳として面倒くさがっていた相手が、それでした。
捨てたものの大きさを聞いた人が、次の居場所になったのは筋が通っています。
まとめ
月島基は、日清戦争から帰った1895年に父親を殴り殺し、尊属殺人の死刑囚になりました。理由は、父が「月島は戦死した」というデマを流していたからです。
そこから鶴見が拾い上げ、ロシア語を習得させて第七師団へ入れました。ただし1904年の奉天で聞いた話も、その9年前の説明も、すべて鶴見の組んだ芝居です。
根拠は所属にあります。奉天で話しかけてきた同郷の兵士は第二師団で、あの野戦病院にいるはずがありませんでした。
月島はそれに気づいたうえで、鶴見に従い続けます。いご草ちゃんの髪の束は、日露戦争後に小樽の海へ捨てました。
僕はこう読む
鶴見のやり口で最も怖いのは、嘘を一度で終わらせないところです。
自殺していない、骨が出た、骨は工作だった。
三段階に分けて、そのつど月島の逃げ場を塞いでいます。
どれが本当かを追う気力を、意図的に削り取る手順です。
最後に月島が選んだのは、真実を確かめないことでした。
確かめないと決めた人だけが、汚れ仕事を続けられます。
「第七師団唯一の常識人」という呼ばれ方の、いちばん暗い部分がここです。
月島が淡々としているのは、感情が無いからではありません。三度も話を覆されたあとで、確かめることをやめた人の顔です。
——あなたは月島が鶴見に従い続けたのは、命を救われた恩からだと思いますか。それとも鶴見劇場を見届けたかったからだと思いますか。よければコメントで教えてください。
よくある質問
父を殴殺した1895年と、奉天で話を聞いた1904年。この2つの年を押さえると、月島の過去は順に読めます。
Q. 月島はなぜ父親を殺したのですか。
A. 父が「月島は戦死した」というデマを流し、それを信じたいご草ちゃんが行方不明になったためです。
Q. いご草ちゃんの本名は何ですか。
A. 春見ちよです。いご草に似たクセのある髪から、島の者にそう呼ばれていました。
Q. 月島はなぜロシア語が話せるのですか。
A. 監獄から出すために、鶴見が習得を命じたからです。通訳として連れて行くという条件でした。
Q. 奉天の話が芝居だと分かる根拠は何ですか。
A. 話しかけてきた同郷の兵士が第二師団所属で、その野戦病院にいるはずがなかったためです。
Q. 月島は鶴見に騙されていると気づいていましたか。
A. 気づいていました。そのうえで、自分の人生に憤るほどの価値は無いと考えて従っています。
Q. 月島は最後どうなりましたか。
A. 最終話まで生き延び、鯉登の右腕として生涯を過ごしました。
月島の過去の続きです。いご草ちゃんの行方、鶴見劇場に懸けた本音、そして初登場で撃った相手。
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最終更新:2026年9月18日


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