物語のキーマンであるのっぺら坊が捕らえられていた網走監獄は、杉元たちが目指すこととなったひとつのゴールとも言える重要な場所です。
そしてその監獄の長を務めていたのが犬童典獄。
網走監獄は彼によって異様に堅く守られ、のっぺら坊を狙う連中を堂々と待ち構えていました。
今回は職権を乱用しすぎているとも思える犬童の行動やその理由、私情に染まった生き様など、犬童四郎助という人物についてご紹介したいと思います。
目次
【ゴールデンカムイ】網走監獄の監獄長
犬童四郎助は網走監獄の監獄長。
網走監獄は犬童の独断によって、監視のやぐらが敷地内に5か所と山に20か所設置されており、小屋には機関銃も置かれ、看守は全員ロシア製のモシン・ナガン銃で武装されていました。
しかも看守の一部は警備増強のため裏金で雇った人間という堅牢ぶりです。
「ここは私の監獄だ」
という彼の言葉通り網走監獄はまさに“犬童の城”。
犬童はそれだけでなく、武器資金のために囚人を硫黄山で働かせていたり、わざわざ偽ののっぺら坊を用意していたりと、自らの目的の元に非人道的なことも行っていました。
自分の城を護るために権力を使い、その権力の元で何もの囚人が犠牲になっていたということです。
【ゴールデンカムイ】土方に兄を殺された過去
犬童に関して注目しておきたいのが、箱館戦争にて兄を亡くした過去です。
箱館戦争は戊辰戦争における新政府軍vs旧幕府軍の最後の戦闘なのですが、新政府軍だった犬童の兄はこの箱館戦争で命を落としてしまいました。
そして旧幕府軍側で戦っていたのが土方歳三。
土方の箱館戦争での活躍は知る人も多いかと思いますが、一方その敵として葬られたひとりが犬童の兄だったわけです。
これがきっかけで犬童は土方に対し歪んだ復讐心を持つようになりました。
【ゴールデンカムイ】恨みから土方を幽閉
土方への復讐は、犬童が月形樺戸集治監の典獄だった時から始まります。
犬童は箱館戦争で落ち延び政治犯として樺戸に収監された土方歳三を、長年に渡り秘密裏に幽閉するのです。
それは先述の通り旧幕府軍そして土方に対し恨みを持っていたからなのですが、しかし犬童は土方の命を奪いはしませんでした。
数十年ただひたすらに幽閉していたのです。
その理由は「光が消えるのを待っている」。
土方の鋭い瞳から光が無くなった時に改めて処刑しようと決めていました。
監獄でただ生き長らえるというのは、激動の時代の先頭を生きていた土方には戦争で死ぬよりも辛かったかもしれません。
結果を言ってしまえば土方は光を失うことはなかったわけですが、表向きは厳格で潔癖な規律の鬼として有名だった犬童は、実は誰よりも私情を持ち込み人知れず復讐に駆られた役人だったのです。
【ゴールデンカムイ】対面を懇願する永倉を拒否
犬童の傍若無人ぶりは、土方の同志である永倉新八にも及びました。
剣術指導として樺戸へ訪問していた永倉は偶然土方と遭遇するのですが、犬童は「箱館戦争の前に袂を分けたと聞いた」として永倉を部外者扱いし取り合わないのです。
永倉が面会させろと怒鳴り込んでもまったく意に介さず追い出す始末。
犬童は私情によって幽閉していますが、他人には私情を挟ませません。
【ゴールデンカムイ】土方を服従させたい犬童
自身が樺戸から網走に転属する際に土方も一緒に移送させた犬童。
彼が30年以上も土方に執着し、生かし続けるのには理由がありました。
「光が消えるのを待っている」
彼はそう口にしていましたが、実はその言葉の真意とは“土方を明治新政府へ下らせる”ことでした。
箱館戦争で亡くなった兄や自分たち新政府の生き様を肯定するために、旧幕府軍人の志を貫く土方歳三を新政府で「任官」させようと生かし続けていたわけです。
そうして土方を自分の配下に置いた時、犬童の復讐が成就するはずでした。
【ゴールデンカムイ】鎖に繋がれ直接対決
新政府に転向することのないまま土方を逃がしてしまった犬童ですが、のっぺら坊が手元にいる限り土方はまた現れると考えていたに違いありません。
犬童は教誨堂の地下にのっぺら坊を隠し、ひたすら鍛錬に明け暮れその到着を待っていました。
そして予想通り土方は現れ、ついに直接対決となります。
すると犬童は、土方と自身の左手に鎖を繋ぎました。
双方逃げ出すことのできない状況を作り出した犬童。
網走監獄は第七師団が攻めて込んできている真っ只中でしたが、のっぺら坊が奪われようが逃げようが犬童にとってはもはやどうでもいいのです。
「死がふたりを分かつまで」
その目は土方との決着だけを見ていました。
【ゴールデンカムイ】長きにわたる因縁に終止符
何十年にもの長きに渡る因縁は、土方の勝利で幕を閉じます。
会話の最中に土方は密かに掌に血を溜めており、その血を飛ばして犬童の視界を塞いだところで一気に斬り伏せました。
「生け捕りに出来るほどまだ老いちゃいない」
長年幽閉されていたにも関わらず土方歳三は未だ土方歳三だったのです。
いつまでも光を失わない強さをここに見た気がします。
【ゴールデンカムイ】犬童が最後に見せた武士としての誇り
もはや敗北を悟った犬童は命乞いをすることもなくこう言いました。
「やれ、最後の侍…」
犬童は、自分では土方を動かせないことをとっくに分かっていたのではないでしょうか。
「死が分かつまで」という覚悟は、土方を配下にするために生きてきたこの人生の区切りを決意していたように思います。
そして時代に屈せず未だ戦い続ける土方を「最後の侍」として、己の最期を託しました。
土方への執着に生きた犬童にとって納得できる終わり方だったのではないでしょうか。
まとめ
行動だけ見れば私情で権力を思いのままに利用していた犬童ですが、その心の内には兄の死や、兄が礎となった新政府の正当化という犬童なりの正義があったのです。
最期の潔さにその想いを感じますよね。
最終的には「自分のものにならないのならば死んでもらう」という感じのストーカー気質が見られましたが、もしかしたら犬童は、何十年幽閉しても己の志を貫き光を失うことのない土方へ憧れも感じていたのかもしれません。
土方への執着はもはや可愛さすら感じますので、是非また犬童に注目しながら読んでみてください。

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